相続手続きの基礎

相続直後(葬儀後)の手続き

写真:手続きのイメージ

相続が起き、告別式を済まされた直後の手続きとして、次のような内容の手続きがあります。

1.死亡届(7日以内)と火葬許可証

医者の死亡診断書とともに「死亡届」を市町村役場に提出します。その際、火葬許可証交付申請書に認めを押せば「火葬許可証」がもらえます。この火葬許可証を斎場に提出し、火葬後、「埋葬許可証」として交付を受け、納骨の際に利用します。
これらは通常、葬儀業者が代行してくれます。

2.健康保険の喪失(5日以内)と埋葬料の請求(2年以内)

サラリーマンの方やその被扶養者の方が亡くなられた場合には、亡くなられてから5日以内に、本人の場合は健康保険厚生年金の「被保険者喪失届」、被扶養者の場合は「被扶養者異動届」を健康保険証とともに会社から社会保険事務所に提出します。
また、埋葬料(費)として5万円が健康保険から頂戴できますので、「被保険者埋葬料(費)請求書」または「被保険者家族埋葬料(費)請求書」をお出しになってください。死亡したことの証明は死亡診断書や埋葬許可証等の写しかあるいは会社の証明で結構です。
本人が死亡し、健康保険から国民健康保険に変更する場合には、「健康保険等資格喪失証明書」を社会保険事務所又は会社から交付を受け、市町村へ申請してください。

3.国民健康保険(14日以内)と葬祭費の請求(2年以内)

自営業の方やそのご家族の方については、死亡届の提出により被保険者の喪失が自動的にされます。市町村役場で国民健康保険証の更新をしてください。
また、「葬祭費支給申請書」を提出すれば5万円を葬祭費として頂戴することができます。
75歳以上の方は、「後期高齢者医療葬祭費支給申請書」といいます。

4.遺族年金の請求(5年以内)

年金加入者の死亡で、18歳未満の子がいる場合には遺族基礎年金が支給されます。「遺族基礎年金裁定請求書」を市町村や社会保険事務所に提出してください。また、遺族基礎年金の支給対象にならない場合でも、一定の要件を満たした場合に寡婦年金や死亡一時金の支給がありますので、ご確認ください。
一方、サラリーマンで厚生年金加入中の方や受給期間を満たしている方、その他の要件を満たしている方は、遺族厚生年金が支給されます。「遺族年金裁定請求書」を社会保険事務所に提出ください。
年金の請求には、年金手帳や相続人全員を明らかにできる戸籍謄本、住民票、請求者の所得証明書、通帳、印鑑、死亡診断書等の多岐にわたる書類が必要です。

5.年金受給者の場合(10日又は14日以内)

年金を受給されている方がお亡くなりになった場合には、厚生年金は10日以内に、国民年金は14日以内に年金証書や死亡が確認できる書類とともに社会保険事務所へ「年金受給者死亡届」をご提出ください。
亡くなられた日(例えば、7月とします)以後の偶数月の年金受給日(8月15日)に未支給である年金(6、7月分)については、生計を同じくする配偶者や子(配偶者がいない場合)が「未支給年金請求書」を提出します。
また、受給日に年金が振り込まれ、一方で介護保険料(8月15日の場合は8、9月分)が差し引かれた場合には、介護保険料の還付手続きを行います。

6.生命保険金の請求(3年以内)

保険会社から「死亡保険金請求書」を取り寄せ、生命保険の証書、保険会社所定の死亡診断書、亡くなった方の除籍抄本又は住民除票、保険請求者の印鑑証明書や戸籍謄本、契約時の印鑑等が必要になります。

7.その他

世帯主が亡くなった場合には、光熱費(電気、ガス、水道)や電話、家賃の支払い等の名義を変更しなければなりません。口座からの引落しですと、引落し不能になってしまします。各々連絡をとって手続きをしてください。
また、住民票の世帯主は、死亡届により配偶者がいる場合には配偶者が自動的に世帯主に切り替わります。世帯主を配偶者以外の家族にされる場合には変更の手続きが必要です。その他、亡くなられた方のクレジットカードや会費等の支払いがないか、ご確認ください。

遺産分割

1.相続とは、何が相続されるのか?

被相続人の死亡により、被相続人の所有権や債権等の「権利」であるプラスの財産や弁済すべき債務等の「義務」であるマイナスの財産が相続人に承継されます。
これは、被相続人の財産に属していた権利や義務を一定範囲の人(相続人)に受け継がすことであって、誰が、何を、どのように相続するかを決めるのが遺産分割になります。

遺産分割の対象となる財産には、不動産や動産の所有権、地上権などの物権、預金・貸金等の債権、さらに著作権や特許権等の権利も含まれます。

2.相続されないもの

ただし、被相続人の一身にのみ専属する権利のことを「一身専属権」といって、相続されません。
この一身専属権は、被相続人にだけしか帰属していない法律上の地位で他に移転できないものです。これには、代理権や委任、雇用契約上や資格等の地位があります。

また、系譜、祭具や墓地等については、共同相続の対象とせずに、祖先の祭祀を主宰すべき者が引き継ぐものと決められています。

3.相続の承認と放棄とは

相続によって、相続人は被相続人の財産及び債務を承継します(これを「単純承認」といいます)。
ただし、民法では被相続人の権利義務を負わない自由として(例えば借金が財産より多い場合)、相続人の自由な意思を尊重して相続を放棄する権利(これを「放棄」といいます)を認めています。
さらに、相続財産の範囲内で債務の弁済義務を負う、単純承認と放棄の中間的な「限定承認」という制度もあります。
これらの「放棄」や「限定承認」は、相続を知った日から3か月以内に家庭裁判所へ申立てしなければなりません。手続きをしなければ自動的に「単純承認」したことになります。

4.法定相続分の割合

イラスト:子どものイメージ

民法では、相続人の範囲と相続分を定めています。これ以外の者が相続人になることはできません。

相続人は、配偶者と子、配偶者と直系尊属、配偶者と兄弟姉妹の順序で決められており、法定の相続分は次のとおりです。子、直系尊属、兄弟姉妹が数人いるときは同等の割合です。

イ 子及び配偶者が相続人であるとき・・・子2分の1、配偶者2分の1
ロ 直系尊属及び配偶者が相続人であるとき・・・直系尊属3分の1、配偶者3分の2
ハ 兄弟姉妹及び配偶者が相続人であるとき・・・兄弟姉妹4分の1、配偶者4分の3

5.協議による分割

民法は、法定相続分を定めていますが、一方で、協議分割も認めています。協議分割を認めているのは、次の理由からです。

  • 相続分を定めながらも、相続人の合意によるものまでも否定する必要がないこと
  • 民法に相続分の譲渡という相続人の相続分の一部または全部の譲渡を認めていること

さらに、その遺産の分割にあたって、「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢及び生活の状況その他一切の事情を考慮して決めなさい」と定めています。

このように、民法では、相続人が合意すれば、協議分割を認めていますが、合意のない場合には、法定の相続分で相続しなさいという考え方をとっています。

遺産分割協議がまとまれば「遺産分割協議書」を作成します。口頭による合意でも認められますが、後日のため、「遺産分割協議書」を作成し、全員で署名捺印します。

相続スケジュール

画像:相続スケジュール

相続税申告

1.なぜ、相続税があるのか?

人の死亡によって残された財産に対し、富の再分配を図る意味合いから、国は、相続税という税金を設けています。

2.いくら財産があると相続税がかかるのか?

相続税は、被相続人の財産から債務や葬式費用を差し引いた残額が基礎控除額(5,000万円+法定相続人の数)を超える場合に相続人に対し課税されるものです。

相続財産は、物や債権等の金銭に見積もることのできる経済的価値のあるものすべてに対して評価されます。被相続人の死亡の時における財産や遺言により遺贈された財産とともに、相続によって発生した生命保険金や死亡退職金のようなみなし財産とよばれるものまでが対象となります。

例外として、墓地、仏壇、祭具等や一定限度の生命保険金や退職手当金等は、慣習や国民感情、あるいは、公益性、社会政策上の観点から、非課税財産とされています。

3.相続税は、相続財産だけにかかるのではない!?

写真:街並みのイメージ

相続または遺贈(遺言)により取得した財産以外に、「相続開始前3年以内に被相続人から贈与により取得した財産」、あるいは、「相続時精算課税により取得した贈与財産」が課税価格に加算されて相続税額が計算されます。
その算出された相続税額から、この両方の贈与財産にかかった贈与税額が控除されます。

4.申告の期限

相続人は、相続が起こってから10か月以内に相続税の申告をし、相続税を納付しなければなりません。
被相続人の財産を洗い出して評価をし、一方で相続人間での分割協議を進めていかなければなりません。それには、税理士の協力が必要となります。

10か月以内に分割協議がまとまらなければ、相続税の申告は未分割財産として、法定相続分で分割したと仮定して、相続税の申告をすることになっています。

5.納税方法

申告期限までに、相続税を金銭で一括して納めるのが原則です。ただし、相続財産の内容によって納められない場合がありますので、一定の条件のもとに延納(分割払い)や物納(相続した財産そのもので納める方法)という制度があります。

相続税計算順序

相続税の計算は次の5段階により行われます。

第1段階 課税価格の計算

相続財産 + みなし相続財産 - 非課税財産 - 葬式費用+債務 + 相続開始前3年以内の贈与財産および相続時精算課税制度の適用贈与財産

第2段階 課税される遺産総額の計算

課税価格 - 基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)

第3段階 相続税の総額の計算

課税される遺産(速算表により計算) × 法定相続分(速算表により計算) × 累進税率(速算表により計算) = 各人の相続税額

 各人の相続税額の合計額  相続税の総額 

★基礎控除後の金額を法定相続分で取得したものとした場合における各取得金額に税率を適用します。

第4段階 各人の負担する税額の計算

相続税の総額	×	各人の課税価格 各人の課税価格の合計額

第5段階 納付税額の計算

各人の負担する税額	+	税額の2割加算	-	配偶者控除等 の税額控除	-	3年以内の贈与財産 に対する贈与税 及び 相続時精算課税 に係る贈与税

名義変更

相続人間で遺産分割協議が確定しますと、被相続人の財産について、各相続人へ名義を変更します。

1.不動産の場合

財産が不動産であれば、相続登記を行わなければなりません。これには、遺産分割が確定したことの確認できる「遺産分割協議書」か「遺言書」が必要になります。

「遺産分割協議書」は、相続人毎に相続する財産が明記されており、相続人全員が署名捺印して作成します。その遺産分割協議書をもって、相続手続きを行います。

また、「遺言書」がある場合には、自筆証書であれば、家庭裁判所の検認調書付きで、公正証書、秘密証書であれば、その遺言書を用いて登記します。
この登記には、相続人の全員を明らかにする被相続人や相続人の戸籍謄本等や相続人全員の印鑑証明書が必要です。
この一連の登記の実務を行う専門家が司法書士です。

2.預貯金や上場株式の場合

写真:木のイメージ

財産が預貯金や上場株式であれば、「遺産分割協議書」か「遺言書」又は相続人全員の合意による「相続関係届出書(名称は各金融機関によって異なります)」によって誰が相続するかを確定させ、その相続人の口座への振替や移管を行います。

手続きの書類は、各金融機関によって所定の様式が異なりますので、それぞれの用紙を取り寄せて申請しなければなりません。

これらの名義変更の手続きには、「遺産分割協議書」あるいは「遺言書」又は「相続関係届出書」といった書類以外に、相続人の全員を明らかにする被相続人や相続人の戸籍謄本等、相続人全員の印鑑証明書が必要です。

3.被相続人の戸籍謄本等

相続人に対しての名義変更は、相続人のうち誰が相続したのかを示す上記の「遺産分割協議書」あるいは「遺言書」又は「相続関係届出書」の書類以外に、相続人が全員明らかになっており、その相続人がだれであるのかを確認するための書類として、被相続人の戸籍謄本や除籍謄本と相続人の戸籍謄本が必要になります。

被相続人の誕生のときからの戸籍謄本等(除籍謄本や改正原戸籍を含みます。)を全部取り、相続人の戸籍を確認しないと、相続人全員が確定できません。

以上のように、名義変更には、必ず、「相続人全員を示す書類(戸籍謄本等)」と「どの相続人がその財産を相続したかを示す書類(遺言書や遺産分割協議書)」が必要となります。