法定相続人(相続人は誰か)

写真:老夫婦のイメージ

相続は人の死亡によって始まります。その亡くなった被相続人の財産を受け継ぐ者は、民法で定められています。
その財産を承継する者を相続人といい、相続人は、その被相続人の配偶者と直系の血族、兄弟姉妹となっています。

相続人にはその順位が定められており、第1順位が子、第2順位が直系の尊属、第3順位が兄弟姉妹となっています。配偶者は、常に相続人で子、直系尊属、兄弟姉妹とともに相続します。(民887、889)

1.第一順位の相続人.........子

イラスト:親子のイメージ

子が被相続人の亡くなる前に死亡し又は法律によって相続権を失っているとき(これを「欠格」、「廃除」といいます)は、その子の直系卑属である子(子の子)が順次相続します。これを「代襲相続」と呼びます。
養子が亡くなっている場合には、養子縁組後にできた子には代襲相続権がありますが、縁組前からいる子には代襲相続権はありません。

2.第二順位の相続人.........直系尊属

イラスト:母

第一順位の相続人がいないとき、はじめて相続人になります。
直系尊属のうち親等の異なる者の間では、親等の近い者(祖父母より父母)が優先します。

3.第三順位の相続人.........兄弟姉妹

イラスト:兄弟のイメージ

第一順位の相続人も第二順位の相続人もいないときに限り相続人となります。兄弟姉妹が相続人となるべきときに亡くなっているときはその子が代襲相続人となります。ただし、兄弟姉妹の代襲相続人はその子までの1回に限り認められ、孫以下は代襲相続人となりません。

4.配偶者は、常に他の相続人と同順位で相続人となります。(民890)

この配偶者とは、婚姻届のされている男女相互の間柄をいい、内縁の夫又は妻は含まれません。

(注1)「欠格」とは、被相続人を死亡に至らせようとした者や詐欺強迫によって遺言を作成した者で相続権を失うことをいいます。
(注2)「廃除」とは、被相続人に対し、虐待や侮辱や著しい非行をした推定相続人で被相続人により相続権を奪われることをいいます。

相続分(相続人の法定の相続分は)

相続分とは、相続人が相続財産に対して有する割合をいいます。

1.法定相続分(民900、901)

写真:夫婦のイメージ

民法で定めている各相続人の法定相続分は次のとおりです。

イ 子及び配偶者が相続人であるとき
子 2分の1
配偶者 2分の1
ロ 直系尊属及び配偶者が相続人であるとき
直系尊属 3分の1
配偶者 3分の2
ハ 兄弟姉妹及び配偶者が相続人であるとき
兄弟姉妹 4分の1
配偶者 4分の3
ニ 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときの各自の相続分は均等です。

平成25年12月の民法改正により、法律上の婚姻関係のない男女間で生まれた子(「非嫡出子」といいます)の相続分は婚姻関係のある男女間で生まれた子(「嫡出子」)の相続分と同等となりました。一方、兄弟姉妹が相続人である場合に、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1です。
なお、代襲相続人の相続分は、その直系尊属が受けるべきであった相続分と同じです。

2.指定相続分(民902)

イラスト:夫婦のイメージ

被相続人は、遺言で、自ら共同相続人の相続分を定めたり、自分で定めずに第3者に委託することができます。

この遺言は、民法の定める1の法定相続分に優先します。
ただし、遺言がある場合でも、相続人の最低限の相続財産に対する権利として「遺留分」というものがあり、遺留分の権利に相当する相続分については、遺言に優先します。
ただし、遺留分の規定に抵触する場合でも、遺言による相続分の指定が無効になるわけではなく、遺留分を侵害された相続人は、遺留分の権利を遺言を受けた者に対し行使することができます。

被相続人が遺言で、共同相続人中の1人又は数人の相続分のみを定め又はこれを第3者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、法定相続分の規定に従うものとされています。

相続人の欠格事由(相続人になれない者)

写真:ノートとペンのイメージ

本来であれば相続人と推定される者のうち、「欠格事由」に該当する者は相続人とされないようになっています。

この「欠格事由」に該当する者には、次のような者が該当します。(民891)

(1)意図的に被相続人やその被相続人の死亡時に相続人となるもの(これを「推定相続人」といいます)や自分より先の順位又は同じ順位の相続人となる者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために刑に処せられた者

(2)被相続人の殺害されたことを知って、これを被害者として捜査機関に告訴せず、あるいは告発しなかった者。ただし、その者に是非の判断能力がないとき、又は殺害者が自 己の配偶者もしくは直系血族であったときは、この限りではありません。

(3)だましたり(詐欺)又はおどしたり(強迫)することによって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者

(4)だましたり(詐欺)又はおどしたり(強迫)することによって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者

(5)相続に関する被相続人の遺言書を偽の遺言書を作成し、遺言書の内容を変えたり、破棄し、又は隠した者
「欠格事由」に該当する相続人がいても、その相続人の子は代襲相続人となります。

相続人の廃除(相続人の資格がなくなる者)

欠格事由に該当しないが、被相続人に虐待、侮辱した者あるいは著しい非行のある者で相続人となりうる者(推定相続人)が被相続人によって、相続人から除かれる制度です。(民892)

1.推定相続人の廃除

写真:木のイメージ

遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対して虐待をし、もしくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったとき、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができます。
廃除を遺留分を有する推定相続人としたのは、被相続人が廃除したい相続人以外の者に遺言しても、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分という最低限の相続する権利があるため、それらの権利のある推定相続人に対して規定を設けています。

2.遺言による廃除

被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示し、遺言の内容を実行する者として遺言執行者を決めていた場合には、その遺言執行者はその遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければなりません。この場合にはその推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生じますので、相続人でなかったことになります。

3.廃除の取り消し

写真:虹のイメージ

被相続人は、いつでも推定相続人の廃除の取り消しを家庭裁判所に請求することができます。また、遺言によって廃除の取り消しをすることができます。
この廃除の手続きは、家庭裁判所による調停、審判で確定します。廃除の申し立てにより無条件に認められるものではありません。また、廃除の場合は、欠格と異なり、遺言により財産を受ける権利までは無くなりません。

(注1)「推定相続人」とは相続が開始した場合に相続人となるべき者をいいます。

相続の承認と放棄(財産や債務を引き継がない場合)

1.単純承認(民920、922)

相続が起こり、そのままでいますと被相続人の財産に関する権利や義務を無制限に承継することになります。これを「単純承認」といいます。
一方、すべての権利や義務を承継しないで制限するものが、次の「限定承認」「放棄」と呼ばれるものです。2の「限定承認」や3の「放棄」の手続きをしなければ、自動的に承認したことになります。また、相続財産の一部または全部を処分した場合も単純承認したものとみなされます。

2.限定承認(民922~937)

相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ、被相続人の債務を弁済する相続の方法です。
これは、相続財産の範囲内で相続債務を負うことを意味しますので、財産と債務のいずれが多いか不明の場合において用いられます。
ただし、限定承認を行うには、原則として、被相続人の死亡を知った日から3か月以内に、相続財産の内容を記載した財産目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認する旨を相続人全員の共同で申請しなければなりません。

3.放棄(民938~940)

イラスト:子どものイメージ

相続の放棄とは、被相続人の財産に属した権利や義務の承継を拒否する行為であり、被相続人の財産を受け取らないとともに一切の債務も引き継ぐことがなくなります。
借金などの債務が財産より多いときに利用されたりする制度です。

この放棄をすると、その放棄者は、その相続に関しては初めから相続人にならなかったものとみなされます。当初から相続人にならなかったものとみなされますので、放棄者に子があっても、その子は代襲相続人にもなることはできません。

この相続の放棄は、限定承認と同じく相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に放棄の申述を家庭裁判所にしなければなりません。ただし、この期間は利害関係人等の請求により伸長することができます。

なお、相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは、ここでの承認又は放棄の期間は、その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知ったときから、これを起算することになっています。

相続人がこの期間内に限定承認も放棄もしなかったときは、単純承認をしたものとみなされます。

相続財産(どんなものが相続財産か)

被相続人の死亡により、相続人は被相続人の財産に関する一切の権利義務を承継します。(民896)
被相続人の所有する不動産、動産、債権等をはじめとする財産だけでなしに、借入金、保証金等の債務を相続しますが、被相続人の「一身専属権」は除かれます。
この「一身専属権」とは、被相続人にだけしか帰属しない法律上の権利で、代理や委任、雇用上や資格における地位等があり、相続されることはありません。

相続財産となるかどうか、見解の分かれるものについて、下記に取り上げてみます。

損害賠償請求権

生きていたら得られたであろう逸失利益を含む財産的な意味合いの「損害賠償請求権」は、財産上の権利であり相続財産として認められます。一方、相続人による「慰謝料請求権」については、従前意見が分かれていました。

この「慰謝料請求権」は、被相続人の苦痛に対するものですから、一身専属に属するものをいう考えがあり、相続財産でないと考えられていました。しかし、かってある被相続人の亡くなる直前の「残念、残念」と発した苦痛の表現が、被害者の精神的な苦痛による請求権の行使だとして、「慰謝料請求権」が認められた例がありました。
さらに、言葉で発することもなく瞬時に亡くなった場合に、この請求権がないことになると、亡くなり方によって均衡を逸することとなりますので、昭和42年の最高裁の判例によって、現在では、この慰謝料請求権も相続の対象とされるようになっています。

生命保険金

写真:森林のイメージ

生命保険の請求権は、被保険者の死亡によって保険金の請求権が得られるため、相続財産と似ていますが、生命保険契約が受取人のためにする契約ですので、その契約の受取人の固有の財産として考えられています。
保険の受取人を単に相続人とした場合でも、相続人として表示したに過ぎず、相続財産でなしに相続人の固有の受け取るべき権利であるとみています。

ただし、特定の相続人を多額の生命保険金の受取人としますと、相続財産の分割に均衡を欠くことになります。こういった場合には、相続において特別受益分として判断される可能性が高くなります。

賃借権

賃借権も相続の対象となりますが、内縁の配偶者がいる場合には、次のように取り扱われます。
まず、居住用建物を賃借して、内縁配偶者の相手方が死亡したときに、亡くなった相手方に相続人がいないときは、内縁配偶者が賃借権を相続します。
相続人が同居している場合には、その相続人が賃借権を相続しますが、その相続人の意思に反しない限り、内縁配偶者が居住できることとなっています。
ただし、相続人が別居である場合には、内縁配偶者が賃借権を持てるという見解と持てないという見解の両方があります。

保証債務

金額の特定された保証債務は相続されます。したがって、債権者から保証債務の弁済を求められますと、相続人はそれを履行しなければなりません。
一方、就職の際の身元保証や一定の金額の範囲内の継続的な取引で用いられる包括的保証契約は被相続人の個人的信用にもとづくもので、その者と運命を共にしますので、相続されません。

遺産分割と配分の方法(分割の仕方と配分方法)

1.遺産分割の方法

写真:家族のイメージ

遺産の分割の方法には、遺言による方法と協議による方法との2種類あります。

①指定分割(民908)
被相続人が遺言によって自ら分割方法を指示する方法で、次の分割協議に優先します。

②協議分割(民907)
共同相続人は、被相続人が遺言で禁じた場合を除いて、あるいは、被相続人の遺言による指定がなければ、共同相続人全員の協議で分割を行います。

遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮しなさいとされています(民906)。

この協議分割には、共同相続人と相続財産の一定割合を受ける遺言をされた包括受遺者とを含めて、全員の参加で協議により決定します。一部の共同相続人を除外したり、あるいはその意思を無視したりした分割協議は無効です。

ただし、共同相続人間の協議が調わないとき、又は行方不明者などがあって協議ができないときは、共同相続人は共同して又は1人で、家庭裁判所にその分割を請求することができることになっています。

2.遺産の配分方法

遺産に含まれる財産の配分の仕方には次のような種類があります。

①現物分割
遺産のうち、自宅の土地は相続人甲に、自宅の建物は相続人乙というふうに、不動産や現預金等の個別の財産を現物で分割する方法をいいます。

②価格分割(換価分割)
現物分割が出来ないときや、しにくいときに相続財産を処分して金銭に替えて分割する方法です。

③代襲分割
特定の相続人が、相続又は遺贈により財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の相続人に対して、債務の負担(自己の固有財産を提供)することによる分割方法です。
現物分割が困難な場合や農地のように特定の者に一括承継させる必要がある場合などで用いられます。あるいは、協議分割の場合にあっても、必要に応じてこの方法を採ることがあります。

遺産分割協議書(分割の合意書)

写真:木のイメージ

遺産分割協議が相続人間で確定した場合、口頭で分割を決めておいても構わないのですが、後日の「言った、言わない」とのトラブルを避けるために「遺産分割協議書」を作成します。

また、この「遺産分割協議書」は、財産を相続人等の名義に変更するための証となる書類になります。さらに、相続税の申告書にも添付が義務付けられています。

この「遺産分割協議書」は、書式として定められているものではありませんが、共同相続人全員が署名押印しなければなりません。署名は自署でなしに記名でも構いませんが、自署の方が間違いがなく、さらに、押印は必ず実印(印鑑証明書の印)を用います。また、遺産分割協議書に印鑑証明書を添付しておきます。
共同相続人が一堂に会して、分割協議書に署名押印しなければならないものでなく、持ち回りで作成することも認められます。

①誰がその財産、債務を承継するか明記します。
②財産は具体的に判断がつくように記載します。
③分割協議書に具体的に表されていない財産がでてきた場合に備えて、誰が相続するか決めて分割協議書に記載しておくと便利です。
④住所の記載は、印鑑証明書の住所で記載します。
⑤遺産分割協議書の部数は各相続人が1通づつ所持できるよう、人数分用意するとよいでしょう。
⑥分割協議書が1枚で書ききれないときは、各用紙を契印(両方の用紙にまたがって押印すること)しておきます。

特別受益者の相続分(過去に贈与を受けた財産を含めた場合の相続分)

1.特別受益分の加算(民903)

相続人の中で、被相続人から遺言で財産を受けたり、また、生前に被相続人から婚姻のため、養子縁組のため、あるいは生計の資本として贈与を受けていた場合は、被相続人の相続時の財産ばかりでなく、それらの遺贈または贈与財産を加えたものを相続財産とみなして分割を協議します。
この加算される遺贈や贈与財産を「特別受益」といいます。これらの財産が加算されるのは生前の贈与によって、相続財産が不均衡にならないようにバランスを取るためです。

そのみなし相続財産に対して算定された相続分の中から、その遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってそれぞれの相続人の相続分とします。また、その遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額を超えるときは、その遺贈を受けた者(受遺者)や贈与を受けた者(受贈者)は、その相続財産を受けることはできません。

  各相続人の相続分

=みなし相続財産(相続財産の価額+遺贈の価額+贈与の価額)×相続分
-各相続人の受けた特別受益の価額

2.特別受益の内容

写真:木のイメージ

この特別受益は、遺贈又は婚姻もしくは養子縁組もしくは生計の資本による贈与となっています。
このうち、婚姻・養子縁組には持参金・嫁入道具・支度金などが含まれますが、結納金や挙式費用は含まれません。また、生計の資本には事業資金やマイホームの資金等が含まれます。
さらに、生命保険金や死亡退職金が特別受益に含まれるかどうかは、原則的に相続人や受遺者の固有の財産とされますが、相当な金額を超えたり、バランスが崩れるようであれば特別受益に含まれる可能性があります。

〇贈与の価額(民904)
特別受益に加算される贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が消滅し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始のときにおいてなお原状のままであるものとしてこれを評価します。

3.居住用不動産の持ち戻しの免除

平成30年の民法改正により、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与した時は、その被相続人は、その遺贈又は贈与について特別受益の持ち戻しの適用をしない旨の意思表示をしたものとされました。

これにより、配偶者の相続分が、従前は自宅不動産の持戻しにより、金融資産等の他の財産の相続分が減少したものが、改正後は持戻さないことにより、金融資産等の相続分が増すことになりました。

寄与分

1.寄与分(民904の2)

相続人の中に、被相続人の事業を手伝ったり、財産の提供をしたり、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とします。

  各相続人の相続分

=みなし相続財産(特別受益を含む相続財産の価額-寄与分の価額)×相続分
+寄与分の価額

寄与分は、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与とされていますので、相続人でない者が寄与した場合や通常の療養看護では寄与の対象とされません。
ただし、相続人の配偶者が寄与した場合には相続人の寄与分とみなされるようです。

この協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、寄与した者の請求により寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して寄与分を定めます。

2.寄与分の価額の限度

寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができません。

3.特別の寄与(民1050)

従来、寄与分制度は相続人においてのみ認められており、相続人以外の者(例えば、相続人の配偶者)にはありませんでした。平成30年の民法改正により、相続人以外の者でも認められる特別の寄与分が制度化されることになりました。

(1)親族の特別の寄与分

被相続人に対して無償で療養看護そのほかの労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び欠格、または廃除によってその相続権を失った者を除きます。これを「特別寄与者」といいます。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭の支払いを請求することができます。

この特別寄与料の支払いについて、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができます。家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して特別寄与料の額を定めます。

(2)請求期間

この特別の寄与は特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月以内、又は相続開始の時から1年以内に請求しなければなりません。この点、期間の制限に注意する必要があります。

(3)相続人の寄与分との相違

相続人にも寄与分が認められていますが、これは、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持または増加につき特別の寄与をした場合となっています。

相続分の譲渡(自己の相続分の譲渡)

1.相続分の譲渡(民905)

写真:クローバーのイメージ

相続人の中でご自身の相続分を他の相続人や第3者に対して譲り渡すことを「相続分の譲渡」といいます。これは、相続人の中で遺産分割まで待てず金銭を必要として譲渡する場合やあるいは自身の相続分は不要として譲渡する場合があります。

この相続分は、共同相続人が相続財産全体に対して持つ相続分で、個々の財産に対して持つ共有持分ではありません。この相続分は、他の相続人の同意なしに譲渡できます。
譲渡する相手は他の相続人でも全く関係のない第3者でも構わず、有償でも無償でも移転できます。

2.相続分の取戻権(民905)

第3者に譲渡した場合には、その第3者が遺産の分割協議に参加することになります。
ただし、第3者に譲渡された場合には、他の相続人は「取戻権」があります。
これは、譲渡されてから1か月以内であれば、取戻す権利がありますので、相続人はその取戻し時の時価でその譲渡に係る費用を負担することによって取戻しができることになっています。

なお、相続分の譲渡人は、相続人としての地位は失われますが、相続債務については譲渡後も譲受人とともに債権者に対して責任を負わなければなりません。

相続人の不存在(相続人がいない場合の相続財産の取り扱い)

相続人が現れない場合には、相続人がいないか調査します。相続人が現れなければ、内縁の妻や事実上の養子等の利害関係人が被相続人の財産を受けることができます。そのような該当者もいなければ財産は国庫に帰属します。

1.相続財産法人及び相続財産管理人

写真:自然のイメージ

相続人がいることが明らかでない場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任し、相続財産そのものは形式上、相続財産法人とされます。(民951,952)

相続財産の管理人が選任されたときは、家庭裁判所は、遅滞なく公告します。
この間、相続財産の管理人は、被相続人に対する債権者又は遺言を受けた者の請求があるときは、その請求した者に相続財産の状況を報告しなければなりません。(民954)

2.相続人の探索と債権者への弁済

管理人選任の公告後2か月以内に相続人がいることが明らかにならなかったときは、相続財産の管理人は、遅滞なくすべての相続債権者及び受遺者に対し、2か月以上の期間を定めて、その期間内に請求をすべき旨を公告します。(民957)

この期間の満了後、なお相続人のあることが明らかでないときは、家庭裁判所は、相続財産の管理人または検察官の請求によって、6か月以上の期間を定めてその期間内に相続人がいればその権利を主張すべき旨を公告します。(民958)

この期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは、相続人並びに相続財産の管理人に知れなかった相続債権者又は受遺者は、その期間内にその権利を行使することができません。(民958の2)

3.特別縁故者への分与

写真:自然のイメージ

相続人が現れない場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人療養看護に努めた者その他相続人と特別の縁故があった者の請求により、これらの者に清算後残存すべき相続財産の全部または一部を与えることができます。
この請求の期間は相続人探索公告の期間満了後3か月以内にしなければならないとされています。

これらの縁故者には、被相続人と夫婦または親子同然の生活を送っていた内縁関係者または事実上の養子等が該当します。ただし、これらの特別縁故者が現れず処分されなかった相続財産は、国庫に帰属します。

養子(養子縁組の概要)

養子縁組は、民法に次のように定められています。

1.養親となる者の年齢(民792)

成年に達した者は、養子をとることができます。

2.養子とすることを禁止する場合

(1)尊属又は年長者の場合
尊属又は年長者は、これを養子とすることができません。

(2)後見人が被後見人を養子とする場合
後見人が被後見人を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければなりません。後見人の任務が終了した後も、まだその管理の計算が終わらない間も同様です。

3.配偶者のある者の養子縁組

写真:家族のイメージ

配偶者のある者が縁組をするには、その配偶者の同意を得なければなりません。ただし、配偶者とともに縁組をする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は、この限りでありません。
昭和62年の民法改正以前は、夫婦が養子縁組する場合、養子となる場合も養親となる場合も共同でしなければなりませんでしたが、改正後は、未成年者を養子縁組する場合だけに限られることになりました。

4.未成年者を養子とする場合

(1)夫婦が未成年者を養子とする縁組
配偶者のある者が未成年者を養子とするには、配偶者とともにしなければなりません。ただし、配偶者の嫡出である子を養子とする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は、この限りでなく単独で養子とすることができます。

(2)未成年者を養子とする縁組
未成年者を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければなりません。ただし、自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合には、この限りでありません。

(3)15歳未満の者を養子とする縁組
養子となる者が15歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって縁組の承諾をすることができます。
法定代理人がこの承諾をするには、養子となる者の父母でその監護をすべき者であるものが他にあるときは、その同意を得なければなりません。

5.養子の氏

養子は、養親の氏を称します。ただし、婚姻によって氏を改めた者については、婚姻の際に定めた氏を称している間は養親の氏に改める必要はありません。

6.協議離縁

縁組の当事者は、その協議で離縁することができます。協議以外では、裁判によって離縁することも可能です。
また、一方が死亡した場合に生存当事者が離縁しようとするときは、家庭裁判所の許可を得て、離縁することが可能です。