相続税申告のポイント

税務調査

1.税務調査の概要

国税庁が公表した平成28事務年度(平成28年7月~平成29年6月)における相続税の調査実績によると、以下の件数が申告漏れとなっており、申告漏れ課税価格は、3,295億円(2,720万円/1件あたり)、申告漏れ税額は716億円(591万円/1件あたり)となっています。

相続税申告件数
税務調査実績申告漏れ実績申告漏れ割合
105,880件12,116件9,930件82.0%

また、申告漏れ相続財産の種類別内訳は次のようになっています。

種類
土地家屋有価証券現金預金その他
構成比11.8%1.7%16.5%33.1%
36.8%

申告除外財産の過半は、金融資産(有価証券及び現金・預貯金)で占められています。また、仮装・隠蔽行為があったとして、重加算税が課せられた割合は調査件数のうち、13.1%の割合となっています。

2.税務調査の確率

税務署が、どうして相続が発生したことを知っているかといいますと、それは、死亡届を受けた市町村が、その翌月末までにその住所を所轄している税務署へ通知することになっているからです。
相続税の税務調査は、一般的に相続税の申告期限後、半年から2年後くらいに行われます。平成26年は、年間5.6万件程度の申告件数に対して調査件数が約1.2万件で、税務調査を受ける割合は約20%強でしたが、平成27年以後は相続税の基礎控除が下がったことで、申告件数が約10万件に増加した一方で税務調査の件数は変わらなかったため、税務調査を受ける割合は約10%強に下がっています。
遺産の課税価格が3億円超である申告の占める割合が20%程度ですので、相続税の課税価格が3億円超の場合にはたいてい調査があると考えておくべきでしょう。

3.税務調査の目的

写真:電卓のイメージ

税務調査の目的は、課税が正しく行われているか、申告の方法は適切か否かを調べることにあります。具体的には、銀行、生命保険会社や一般事業会社などからの支払調書から預金の所在や死亡保険金・退職金の有無などを把握します。

また、毎年の確定申告書を継続管理し、この中の不動産所得、配当所得、利子所得などの資産所得から資産の移動や蓄積状況を把握しています。特に金融資産については、故人の名義の金融資産はもちろん、配偶者や同居家族の名義の預金についても調査し、その妥当性の検討が行われます。

さらに、銀行などで資料の収集をしたりして、過去5年分のそれぞれの名義の預金の変動を調べ異常な変動がある年分を集中して精査します。

例えば、亡くなった父の預金が3年前に急に大きく減少していたりしたら、何か他の資産を取得したか、又は、家族などに贈与したかなどが通常考えられます。そのため、新たな資産の取得が確認できなければ、家族名義の預金をチェックし、増加している場合には時期と金額などを突合し、贈与の事実を推定します。

さらに、その金融資産の管理者や取引印鑑などをチェックし、真の所有者が誰であるかを判定する場合の目安としています。

贈与財産

相続税の申告では、相続財産に加算しないといけない贈与財産があります。その贈与財産とは、「相続開始前3年以内贈与財産」と「相続時精算課税贈与財産」の両方です。

1.相続開始前3年以内の贈与財産

相続又は遺贈により、被相続人から財産を取得した相続人又は受贈者で、相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けた場合に、その贈与財産を相続財産に加算することになっています。
相続手続きの基礎の「相続税計算順序」参照
これは、相続の近い時期に贈与があった場合には、その贈与財産を相続税に取り込んで精算しようする考え方です。

この「相続開始前3年以内の贈与財産」は、相続があった日から暦で3年以内の贈与で、相続があった年の贈与は含みません。相続があった年の贈与財産は相続財産として計算します。

また、この「相続開始前3年以内の贈与財産」は、相続又は遺贈により財産を取得した方のみが対象ですので、相続人その他の方で今回の相続により財産を受け取っていない方は含まれません。その方々は贈与だけで済みます。

「相続開始前3年以内の贈与」で、贈与税を支払っていらっしゃる相続人や受贈者は、相続税額から差し引いて精算します。この際、控除しきれなかった金額は切り捨てられます。

1.相続開始前3年以内の贈与財産

写真:男性と女性のイメージ

(1)「相続時精算課税」とは
「相続時精算課税」とは、将来の相続時にその贈与により取得した財産の価額と贈与税額を精算する贈与で平成15年に新設された制度です。
適用の対象となる受贈者は推定相続人又は孫、その年1月1日において20歳以上である者であり、かつ、その贈与者がその1月1日において60歳以上の者である場合となっています。
「相続時精算課税」による贈与税は累積で2,500万円までを非課税とし、それを超える金額について20%の税率で課税されていきます。その贈与財産と贈与税を、将来の相続時に精算します。

(2)相続時の精算
相続財産にこの相続時精算課税の贈与財産を加算しますが、相続人の全員からその精算課税贈与の適用について確認をしなければなりません。
もし、直接相続人から確認ができないようであれば、管轄の税務署に対し、「相続開始前3年以内の贈与」も含めて、過去の申告の内容の開示を求めることができます。

(3)相続により財産を受けていない場合でも申告が必要
この「相続時精算課税」の適用を受けた相続人は、相続又は遺贈によって財産を受けていなくても、相続時に精算することから相続又は遺贈により財産を取得したとみなされて、相続税の申告をします。
また、適用を受けた推定相続人が被相続人より先に死亡した場合には、その推定相続人の相続人がその権利や義務を承継します。
さらに、養子となってこの制度の適用を受けた者が養子を解除した場合でもこの制度の適用が継続し、相続時に精算します。

(4)贈与税額の精算
相続税から控除してもなお控除しきれない相続時精算課税に係る贈与税額がある場合には、その控除しきれない贈与税額は還付されます。

名義預金

ここでいう「名義預金」とは、被相続人の所有する預金でありながら、相続人その他の者の名義となっているものをいいます。

1.名義預金がなぜ問題とされるか

この名義預金は、税務調査でよく問題とされるところです。

税務署は、申告書の提出後、被相続人等の預金の記録や残高を金融機関で調査します。特に被相続人の預金が年間の所得等からみて少ないと思われる場合、確実に金融機関に対して調べを行います。それは「名義預金として相続財産に計上していないのでは?」と疑いを持つからです。

2.「贈与」とは

写真:自然のイメージ

預金が被相続人から相続人の名義に変わりますと、無償の移転であるかぎり、形式的には贈与とみなされます。ただし、実際に贈与と認めるには、次のような条件を満たす必要があります。

  • 贈与は、贈与者の贈与の意思とともに受贈者の承諾が必要です。
  • 贈与後は、受贈者がその預金を自身で運用管理します。この運用管理とは、証書や通帳、印鑑等を受贈者が管理し、満期や解約後の運用を行うことを意味します。

このように、贈与は、受贈者が承諾するとともにその贈与を受けた財産を運用管理していることが必要です。これらが満たされなければ贈与されたとみなされませんので、税務署はその預金を名義預金として扱い、被相続人の財産として修正を求めます。

したがって、十年以上前に相続人の名義に変え、贈与したつもりであっても、贈与としてみなされなければ被相続人の財産となってしまいます。
このように形式的に贈与しても相続財産からはずれることに半信半疑でいらっしゃる被相続人の方が多いのが実情です。

土地の評価

相続税において、相続又は遺贈により取得した財産の価額は、その取得の時における時価によります。その時価とは、「不特定多数の当事者間で自由に取引される場合の価額」をいいます。その評価方法は、相続税の中にある財産評価基本通達に定められており、土地についての評価方法は以下の通りです。

相続知識の「財産評価とは」の「宅地の評価」参照

1.㎡単価の算出

写真:自然のイメージ

土地の評価は、都市部の宅地(宅地に準ずる農地等を含みます)では「路線価」とよばれる価額を基にします。「路線価」は、路線価図という地図に、評価の対象となる宅地の面する路線ごとに㎡あたりの単価が記されており、その路線価額をもとに評価します。

評価の単位は、1画地の宅地(利用の単位となっている1区画の宅地)ごとに行います。1画地の宅地は1筆ごとになるとは限らず、2筆以上の場合もあり、反面、1筆の宅地が2画地以上の宅地として利用される場合もあります。

さらに、その土地の利用状況に応じて、借家人や借地人の権利を減額して次のように㎡あたりの評価額が計算されます。一般的に用いられる評価の形態は次の3つです。

①自用地の評価・・・㎡あたり路線価×1.0
②貸家建付地の評価・・・㎡あたり路線価×(1-借地権割合×借家権割合)
③貸地の評価・・・㎡あたり路線価×(1-借地権割合)
(注)借家権割合は0.3で統一されています。

2.評価額の計算

宅地の評価は、1の路線価に土地の形状等による補正や利用状況による減額をした後、その㎡あたりの路線価額に、面積を乗じて算出します。

3.評価に影響するいろいろな要素

宅地の評価は、このように敷地の形状や利用状況に合わせて変わりますが、ざっと掲げると次のような項目が関係します。

  • 地形(間口、奥行、不整形等の形状)
  • 道路(道路幅、道路に面する距離、私道負担、建築基準法上の道路による制限)
  • 水路(幅、利用状況、利用制限)
  • 高さ(道路、区分地上権)
  • 広さ(広大地)
  • 第3者との権利関係
  • その他(計画道路予定地などの開発計画)


これらの項目が土地を評価する際に影響しますので、それらをよく調べて評価することにより、評価額が変わってきます。
そういう意味で評価においては、建築基準法等の不動産に関する知識や、現地の視察、そして市役所等の確認が重要です。