家族信託とは

家族信託のメリット

以上のような家族信託の利用法から家族信託のメリットをまとめますと次のような項目が掲げられます。

◆何もできない後見制度に代わる柔軟な財産管理
⇒ 不動産売却、活用、相続対策が可能となる
認知症等で後見制度を利用すると被後見人の財産について借入や贈与ができず、リスクのあることは一切できなくなります。その点、家族信託であれば、信託契約の目的の範囲内で柔軟な運用、不動産の売却や有効活用、あるいは相続対策を図ることが可能です。

◆生前に相続を決めることが可能
⇒ 民法ではできない生前での相続の確定ができる
民法では、生前に相続を確定することはできず、どのような約束も無効となっています。その点、家族信託で受益者が亡くなった後の財産の帰属や受益権の承継を指定しておけば、契約によって生前に相続を確定させたも同然となります。

◆相続法の概念にとらわれない資産承継
⇒ 民法では不可能な次の次の(又次の)財産承継が可能となる
遺言では自己の財産を誰に承継させるか一代限りにおいて可能ですが、家族信託では一代だけに限らず、次の次というように複数の世代にまたがった財産の承継が可能です。

◆不動産の共有問題や共有相続への紛争予防
⇒ 財産管理や処分を一本化し、共有者の認知症発症にも備えられる
共有の不動産でも、信託を組んで受託者を一人にまとめれば、受託者の意思で管理や運用、処分をスムーズに図ることが可能となります。

◆遺留分減殺請求への対応策に活用
⇒ 受益権の分割による遺留分請求への対応が可能
遺留分に請求が起きても、受益権の一部を渡すことで、所有権を留保することができます。また、遺留分請求権者が亡くなった後の受益者を指定することで財産を戻すことも可能です。

→ 高齢者の財産管理に 

→ 障がい者等の弱者の生活の安定に 

→ 相続対策や財産の連続的な承継に 

家族信託組成のスケジュール

家族信託を実施するにあたっての信託契約の組成のスケジュールを以下に示してみます。

ご本人の意向や財産、家族をヒアリング
まず、現状ご本人の意向が何であるか、何をどうしたいかをヒアリングし、お持ちの財産や家族関係を確認します。

後見、遺言等と家族信託の制度活用の検討
現在のご意向に対処するには、後見制度の利用で十分なのか、あるいは、遺言で足りるのか、それとも家族信託を利用すべきか、もしくは、それらを重複して制度を利用すべきなのかを検討します。

信託内容(信託の目的、財産の範囲、受託者、受益者等)の検討
信託を利用する場合には、まずその目的を定め、その目的を達成するためにどの財産をどれだけ信託財産にするか、受託者、受益者を誰にするか、信託監督人をおくべきか、信託の終了事由をどのようにすべきか等を検討します。

信託契約書原案の検討
信託内容の検討を踏まえ、信託契約書の原案を作成いたします。

受託者及び受益者への説明
信託契約書の原案を委託者及び受託者に説明し、信託の内容が適切か、不備や補充すべき点がないか確認いたします。

信託契約書原案の作成
委託者、受託者との協議のうえに改めた契約書原案を作成いたします。

推定相続人、家族等への説明
相続人や家族の方々にお集まりいただき、信託や契約書の内容をご説明し、質問にお応えし、ご了解をいただきます。

公正証書による信託契約書を作成して、信託がスタート
託者及び受託者が公証人役場において、公正証書による信託契約書を作成いたします。

信託財産の移転及び継続フォロー
金銭の受託者名義の口座への移動、不動産の登記名義の変更を行い、受託者での管理を始めます。

家族信託組成に係る諸費用

家族信託制度を利用する際には、以下のような費用が考えられます。

〇専門家が最適な家族信託の仕組みを設計するコンサルティング報酬
〇信託契約公正証書を作成するための公証役場の手数料実費
〇不動産登記の登録免許税等実費及び司法書士の登記手続報酬

一方、信託銀行などの商事信託とは異なり、事業者への信託報酬や手数料は発生しません。

①信託の仕組みを設計するコンサルティング報酬(「家族信託普及協会」参照)
信託の目的に合った仕組みをいかに適法でかつ適正に契約に盛り込むか、また、信託の内容をご家族に説明し、信託の実行のお手伝いをするために必要とされるコンサルティングに係る報酬です。

信託財産の評価額(固定資産税評価額)
報酬額(税別)
3,000万円未満20万円
3,000万円以上1,000万円ごとに6万円を加算

注:1億円以上は上記の金額に1億円を超えるごとに15万円を加算します。

②信託契約公正証書を作成するための公証人役場の手数料実費
契約や法律行為に係る証書作成の手数料は原則としてその目的価額により定められています。

目的の価額
手数料
3,000万円を超え5,000万円以下
29,000円
5,000万円を超え1億円以下43,000円
1億円を超え3億円以下43,000円に、5,000万円ごとに13,000円を加算
3億円を超え10億円以下95,000円に、5,000万円ごとに11,000円を加算

③不動産登記の登録免許税等実費及び司法書士の登記手続き報酬額
不動産の登記に係る登録免許税(不動産を信託した場合の所有権移転登記)

対象財産
課税標準税率軽減税率
土地
固定資産税評価額1,000分の3平成31年3月31日まで延長
建物固定資産税評価額
1,000分の4-

これらはあくまで概算であり、個別のご相談案件により、また、担当する専門家、法人により異なることを予めご承知おきください。

家族信託の利用 ケース1:一軒家から老人施設へ移住する場合

1.現状

画像:実家(母居住) 将来入所 介護施設

母(82歳)は実家に独り住まいで、長男の私は離れて家族とともに住んでいます。母は体がいうことを聞かなくなれば、自宅を処分するか賃貸にして、施設や老人ホームに入所したいと言っています。
実家の土地家屋は母名義ですので、いざというとき、自宅を処分して、施設に入所がスムーズに進むのか心配です。

★お母さんが認知症などで判断能力が低下すると、お母さん名義の自宅は売ることも賃貸するも手続きが大変になります。後見制度を利用しても、家庭裁判所の許可がでるかどうか不明な状況です。

2.家族信託を利用すれば

図:家族信託を利用すれば

委託者・受益者を母、受託者を長男として自宅について信託契約を組めば、お母さんが認知症になったとしても、長男が代わりにお母さんのために自宅の売却や賃貸の手続きを行うことができます。
自宅の名義を長男にすることで、長男の名前で売買等ができますし、また、その代金をお母さんの入所資金として利用することができます。
信託では、委託者と受益者が同じである限り、信託で名義を長男に代えても税金が課税されることはありません(登記に係る税金を除く)。

家族信託の利用 ケース2:高齢者不動産オーナーの資産管理の場合

1.現状

画像:貸アパート 貸マンション 父が認知症になれば ・大規模修繕? ・売却? ・建替え? ・賃貸借契約? ・管理委託契約?

父(84歳)は賃貸物件を2棟所有しており、将来は賃貸マンションは私が、賃貸アパートは妹が相続する予定にしています。父は体力的に衰えが生じてきており、賃貸契約等はすべて私や妹に任せ、私たちで契約書を代筆(サイン)しています。
いまのままで父の判断能力が低下すれば、いざとなったとき大規模な修繕や売却、あるいは建替えや賃貸契約、管理委託契約等いろいろと困難が生じるのではないかと心配になっています。

★父が認知症などで判断能力が低下すると、貸アパートや貸マンションの賃貸管理や管理委託に影響を充てるとともに、大規模修繕や建替え、売却などは後見人を選任せざるを得ないとともに裁判所の許可が出るかどうか困難な状態となります。

2.家族信託を利用すれば

図:家族信託

委託者・受益者を父、受託者を長男として貸マンションや貸アパートについて信託契約を組めば、長男が代わりにお父さんの賃貸物件を管理し、お父さんが認知症になったとしても大規模修繕や売却、建替え、賃貸契約及び管理委託契約等を行うことができ、賃貸管理に与える影響を最低限度に抑えることができます。
将来、お父さんが亡くなった際に信託契約の終了とします(信託で財産の帰属先を例えば、貸マンションは長男に、貸アパートは長女に指定しておけば遺言の代わりとなります)。

3.将来、引き継ぐ物件ごとに信託契約も

図:将来、引き継ぐ物件ごとに信託契約も

なお、将来引き継ぐ物件ごとに信託契約締結を結び、各々が将来自己所有になる前提で管理をさせることも可能です。

家族信託の利用 ケース3:共有不動産のトラブル回避の場合

1.現状

画像:家族信託の利用 ケース3:共有不動産のトラブル回避の場合

長男の私(78歳)には姉妹が3人(長女84歳・次女81歳・三女76歳)います。4人で賃貸アパートを4分の1づつ共有しており、私が賃貸収入の管理から経費の支払いまでまとめて行っています。賃貸アパートも古くなっており、近々建替えをしようか、もしくは、処分しようか迷っています。
ただし、長女は最近物忘れが多くなったように思われ、認知症になれば建替えや処分ができるのか不安になっています。

★もし、長女が認知症を発症すれば、長女も含めた共有の不動産ですので、建替えや処分が困難となります。後見制度を利用しても建替えや処分については家庭裁判所の許可がおりるかどうか不明な状況です。

2.家族信託を利用すれば

画像:家族信託を利用すれば

委託者・受益者を長女、受託者を長男として賃貸アパートについて信託契約を組めば、長男が長女の代わりにサインして、4人共有の古アパートの建替えや処分を行うことができます。

現状、長男が物件の管理を行っていますので、長女だけでなく、次女や三女についても長男を受託者とする信託契約を各々交わしてもよいと思われます。

3.各々承継者も含めて契約も

長男も含め、皆高齢になってきていますので、信託契約を交わす場合には、各人の持ち分について承継者を入れておけば、誰かが亡くなっても、次の受益者にその権利を引き継がせ、そのまま賃貸や管理に支障なく進めていけます。
長女、次女、長男、三女を当初受益者とし、各人の子を第2受益者として指定しておくことでその権利が承継されます。
併せて、受託者である長男も第2受託者を長男の子としておくと受託者の交代もスムーズに図れます。

家族信託の利用 ケース4:相続対策として建物建築の場合

1.現状

画像:現状

母(90歳)が所有する古アパートがありますが、相続対策も兼ねてそのアパートを取り壊し新しくマンションに建替えしようと計画中です。ただし、今から順調に事が運んでも建物の完成まで最低でも1年半以上掛かりますが、請負契約を締結した後、測量・建物の取壊し・建築、銀行からの借入金や賃貸契約等ありますので、母が病気で入院したり、認知症になってこの計画がストップしていますのでないかと心配です。

★もし、母が認知症を発症すれば、家庭裁判所の許可がおりないで、古アパートの取壊しから新しいマンションへの建替え、さらに借入れといったもろもろの計画が中断に追い込まれるかもしれません。

2.家族信託を利用すれば

画像:家族信託を利用すれば

委託者・受益者を母、受託者を息子として古アパートの管理とともに建替えを目的とした信託契約を組めば、息子が母の代わりに建物取壊し、建築の契約、借入れ、賃貸契約等を進めていくことができます。
具体的には、信託契約、不動産移転登記をして、各種契約を受託者が行うと引渡しや借入のリスクが回避できます。

(注)借入については、信託に対する金融機関の対応が十分でありませんので、事前の確認が必要です。

家族信託の利用 ケース5:家督相続と孫への資産承継の場合

1.現状

画像:現状

父(84歳)には先祖から引き継いだ不動産等の財産を同居している長男に受け継がせたいと考えていますが、長男には子供がいません。父は長男に相続させた財産を次に次男の私の子に受け継がせたいと考えていますが、そのとおりに行くのか心配でなりません。

★長男に継がせた財産を私(次男)の子に持ってくるには、長男の妻に遺言してもらうしかなく、そのとおりに実行してくれるかどうか不安です。遺言書を書き換える不安ものこります。

2.家族信託を利用すれば

画像:家族信託を利用すれば

委託者・受益者を父、受託者を長男として、すべての不動産を信託します。父亡きあとの第2受益者を長男とし、さらに、長男亡きあとの第3受益者を次男の子とすることで無事に不動産を次男の子に受け継がすことが可能となります。

(注)借入については、信託に対する金融機関の対応が十分でありませんので、事前の確認が必要です。